2005年 02月 10日
戦後を代表する良心派知識人・鶴見俊輔とフェミニズムの大御所・上野千鶴子、気鋭の新進学者・小熊英二による鼎談集。いや、正確には「鼎談」ではなく、副題にある通り上野と小熊の質問に答える形で鶴見が思想と人生観を語る形式の対談集である。 読み進むうちにフェミン分野に関する上野の過剰すぎる反応とツッコミに一瞬不快感を感じた場面もあったが、対談集にありがちなだらけたムードもなく、愉快に、ユーモアも交え、しかし含蓄あふれた言葉をかみしめつつ気持ちよく読了することができた。お薦めの一冊。 鶴見に関してはさまざまな評価もあったろうが、本書から表れる姿勢はシンプルかつ率直。政治家でもあった自身の父親を「一番病の知識人」と評し、その罪と弊害を指弾する鶴見は「一番病」の典型集団として「東大新人会」を挙げて痛烈にこう皮肉る。 新人会は大正デモクラシーの時代に、吉野作造の民本主義を支持してできたんだ。だけどその後にマルクス主義が流行ったら、民本主義なんかなまぬるい、これからはマルクス主義だというわけで、「吉野のデモ作」とか悪口を言って、共産主義にのりかえちゃった。ところがその連中が、1930年代に弾圧を受けて転向すると、こんどは社会主義なんか古臭い、これからは高度国防国家だとかいって、早々にのりかえるんだよ。 東大新人会といえば、典型的な転向「知識人」のマスコミ権力者に「新人会再建」を訴えた馬鹿がいたなぁなどと苦笑しつつ激しく納得したが、さらに鶴見は「学者だって同じだよ」と言い、「一番病」の弊害を解説する。 ヨーロッパやアメリカにモデルがあって、右顧左眄しながら、その学習をいちはやくこなす。そういう肉体の習慣を持っている人が一番病なんです。(略)だから学界でも論壇でも、そのときの動向で一番をとれるような、細かい仕事しか出てこない。 その鋭い舌鋒は右、左を問わず一刀両断だ。 社会党とか共産党の連中が、いろいろいるじゃないの。それは吉田茂ほど頼りになる奴じゃないと思っていたんだ。いざとなれば、反対側の旗を振っちゃう奴らだっていう。(略)あまり日本の進歩勢力というものを、信じていなかった。戦争中に、あれほど崩れるとは思っていなかったから。 だが、繰り返すが鶴見の依って立つ「基準」は極めてシンプルだ。「ヤクザの仁義」を重んじ、起用で世渡り上手な優等生や一番病と対極にある「一刻者」を愛し、戦争を嫌い、特に「国家に引き出されて殺す立場になる」ことを嫌悪するー。 引用の長い書評になってしまったが、最後に鶴見のこんな言葉を紹介したい。 あんまり固い、思いつめた姿勢じゃなくてね(笑)。軽率なのは愛すべきなんだけど、嘘は全部だめだとか、思いつめたのはよくないって(笑)。ほんとうに嘘のない状態に帰ろうなんて、現実には無理ですよ。やるなら自殺するしかない。 この台詞、別に現実追認主義をとれという意味ではない。勝手な解釈を加えさせてもらえば、気負わず思いつめず、一方で「ヤクザの仁義」はきっちり守り、したたかに軽やかに、しかし骨太に状況へと向かい合えーーそんな意味と受け取った。一読に値する好著だ。(新曜社、2800円)
by tikatusin
| 2005-02-10 16:54
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