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地下通信 [chika-tsûshin]

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2005年 08月 16日

時代の流れ

 いまさらの話だが、世の中が悪い方へ悪い方へと流れているように見える中で実施される9・11総選挙は、このままいくと真に悪い意味で日本の大きな転換点になりそうな気がしてならない。旧来型政治との決別と構造改革の推進といえば聞こえはいいが、要は社会の階層化とファナティックなナショナリズムの拡散を容認し、外交的には極めて歪な対米盲従とアジア軽視路線を肯定する道への重要転機、である。

 小泉首相が狂信的に固執する郵政民営化法案自体への評価は別としても、社会保障や財政などを中心とした根本的な行財政改革は必要なのだろう。地方と国が抱える長期債務残高の総額は今や1000兆円。国民一人当たりで800万円だ。こんな放漫財政の要因は、小泉首相が「ぶっ壊す」と息巻く自民党の長期政権下で続いた利益誘導・バラマキ型政治にあったのは疑う余地もない。

 自民党の古い体質を象徴するものの一つが「派閥」だった。鉄の規律を誇る派閥が選挙資金から閣僚ポストまでを牛耳って永田町と霞ヶ関をコントロールし、「族議員」と呼ばれる一派とも固まりとなって利益誘導型の政治を推し進める。その最先鋭が田中角栄元首相だったのだろう。地方出身の叩き上げ政治家が泥水をすすりつつ政界をのし上がり、危ない橋をわたってでも政治資金を掻き集め、地元に大型公共事業やら新幹線やら高速道路やらを呼び込み、派閥や族議員が中心となって繰り広げられた利益誘導型のバラマキ政治ーーそんな情景が長く続いていた。

 もちろん、こうした旧来型の自民党政治を是とするつもりは毛ほどもない。最近は小選挙区制が導入されたこともあって派閥のパワーは大幅に低下していたし、今回の総選挙では派閥崩壊がさらに音を立てて進んでいるようだ。郵政民営化否決で当初は勇ましかった亀井静香氏も小泉首相のファシスト的な手法の前にすっかりおとなしくなり、派閥の会長も辞任に追い込まれた。橋本龍太郎元首相も引退が確定的で、堀内派も含めれば自民党の主要派閥は軒並み領袖不在のまま選挙戦を戦うことになるのだという。確かに旧来型の自民党は「ぶっ壊れ」つつある。

 そのこと自体はいい。だが例えば、泥水をすすってのし上がった利益誘導型政治家にかわって日本政界で幅を利かせている勢力とはいったい何か。眺め見てみるに、古くからあった有名人やタレント学者、スポーツ選手出身といった“色もの政治家”を除けば、目立つのは地盤や看板、政治資金にさほど苦労せぬボンボン世襲議員たちの姿、姿、姿・・・だ。
 小泉首相自身、祖父が逓信相、父が防衛庁長官などを務めた世襲政治家。次期首相候補に挙げられる人物をみれば安倍晋三、麻生太郎、福田康夫、その他の有力政治家でも中川昭一や石破茂などなど、数え挙げていけばきりがない。2003年9月に発足した小泉再改造内閣では首相を含む閣僚18人のうち実に半数が2世、3世。今や衆議院全体で30%、自民党では何と40%が世襲議員だという。要は日本社会の階層化が急速に進み、希望が掠れる一方で奇妙な不安感だけは増幅し、停滞と閉塞、退屈と倦怠に沈んでいるのだ。だからそんな感情を忘却させるかのように短視的で気味の悪いファナティックな感情が煽られ、拡散していく。

 上に挙げた政治家の性向などあらためて説明するまでもないだろう。泥水を飲まぬから旧来型の腐敗色は薄いが、弱者切り捨てにためらいはない。持てる者は持ち、持たぬ者は持てない。自己責任。強者になびき、過去の忘却に勤しみ、国家への帰属を強要する。ヒステリックな危機管理を叫ぶ一方で隣国への配慮など欠片もなく、その結果、外交的には戦後日本60年の歴史の中でもアジアからこれほど厳しい視線を浴びたことはないような惨状に陥っている。だが、それを屁とも思わぬらしいボンボン政治家は平気の平左で、さらに程度の低いナショナリズムを煽るような言動を繰り返して恥じない。

 先日紹介した元外務省分析官、佐藤優の著書「国家の罠」にあった一節が思い浮かぶ。近年における旧来型政治家の代表格の一人だったろう鈴木宗男がなぜ「塀の内側」に落ちたのかを分析した部分だ。
 《内政におけるケインズ型公平配分路線からハイエク型傾斜配分路線への転換、外交における地政学的国際協調主義から排外主義的ナショナリズムへの転換という二つの線で『時代のけじめ』をつける必要があり、その線が交錯するところに鈴木宗男氏がいた》

 9・11総選挙は、この流れを決定づけるのか、一度は押し戻すのかという転換点となる。民主党に対抗軸を期待するなど無駄なことだと分かっているが、それでも一度は流れを反芻し、捉え直した方がいい。行財政改革が喫緊の課題として必要だとしても、今回は狂信的な郵政民営化是非論のみを争点として投票行動を取るべきではない。停滞と閉塞、退屈と倦怠がやむを得ない時代の流れであるとしても、不安感をファナティックで糊塗するような方法ではない別の道が必ずあるはずだ。
 だがしかしーー。報道などによれば、どうやら小泉首相と自民党への支持度は急上昇しているようである。激しく分かり易い「信念」を旗印に掲げ、「殺されてもいい」とまで吠えて突き進む小泉首相に対し、押しつぶされつつある自民党造反グループの面々はいかにも旗色が悪いし、メディアは久方ぶりの「政治ショー」の追っかけに夢中で、民主党はその狭間で埋もれつつあるように見える。結局のところこのまま投票日を迎えてしまうのか。絶望はしたくないが、暗然たる気分にもとらわれる。蒸し暑い夏だ。

by tikatusin | 2005-08-16 18:17 | 罵詈讒謗


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