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地下通信 [chika-tsûshin]

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2005年 09月 21日

現実主義者の死

 現実主義者の死_c0062756_1634126.jpg後藤田正晴が死去した。本ブログでもその発言を過去に取り上げたが、言うまでもなく官房長官や副総理などを歴任した自民党の重鎮政治家である。
 晩年は極めて常識的な反戦、平和主義の発言が目立ったように見えたものの、決してそれだけの政治家ではなかった。むしろ一貫して権力の中枢を歩んだ冷徹な保守現実主義者だったのではないか。

 戦前に東京帝大を卒業して内務省入りしたエリート官僚。敗戦時は陸軍主計大尉として台湾で迎えている。その後は警察庁長官にまで上り詰め、安保闘争やあさま山荘事件の「鎮圧」を指揮した。内務省時代には自衛隊の前身となる警察予備隊の起案にも関わり、76年に政界入りした後は大平内閣で自治相、中曽根内閣で官房長官、宮沢内閣で法相、副総理を歴任、警察官僚出身の政治家としてコワモテの睨みを効かせた。
 法相在任中の93年には「法秩序維持」のため3年4ヶ月ぶりの死刑執行命令にも署名している。自らの選挙陣営の大掛かりな選挙違反事件が問題となったこともあったし、いちいちここに記さないが与党の大物政治家としてキナ臭い話も漏れ伝わってきた。
 だが、憲法改正論議とは一貫して距離を置き、自衛隊の海外派遣には反対を唱え続けた。共同通信のインタビューによれば、イラク派兵について後藤田は「派遣は間違いだ。小泉君は戦争を知らない。まったく知識がない」と斬って捨てていた。
 また、最近は護憲ハト派の代表格かのように扱われることについて「タカ派なのか、ハト派のか」と尋ねられた際に後藤田はこう答えたという。
 「私は何も変わっていない。世の中の流れが変わってきた」

 先の戦争で権力の暴走と悲惨な敗戦を経験し、その後は権力の中枢を歩み続けた後藤田は何も変わっていない、という。むしろ世の中が変わったのだ。後藤田の死もやはり、大きな時代の変わり目を意味するのか。
 映像作家、森達也のこんな台詞を思い出す。
 「戦争を知っているから絶対それには反対するんだという親父的な政治家たちの世代が終わったときに日本はどうなるのか。強硬派はなぜか2世や3世議員に多い」(「戦争の世紀を超えて」〜姜尚中との対談集)
 今、テレビ画面には総選挙を受けて首班指名を行う臨時国会の映像が流れている。だが、目に入るのは妙に勇ましいことばかり吠えたてる2世、3世のボンボン政治家の姿ばかりだ。

# by tikatusin | 2005-09-21 16:39 | 罵詈讒謗
2005年 09月 20日

恥ずかしき「大国」

 久しぶりに良いニュースといえるのだろう。米国と北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアが参加して北京で開かれていた6カ国協議で北朝鮮が「すべての核兵器と核開発計画」を放棄すると明記した共同声明が採択された。
 もちろん今後の具体的な履行段階では数々の難題が残っており、道のりは遠い。核放棄と軽水炉提供の順序をめぐって米朝は早くも鞘当てを演じているが、声明が問題解決に向けた大きな転換点であることは間違いなく、北東アジアの平和と安定をめぐって6カ国が協力する枠組みを示した歴史的合意文書だ。

 とまあ、その意義は誰もが否定しないとして、我が日本国はいったい何をしたか。贔屓目に見ても、ほとんどな〜んにもしなかった。
 韓国が「韓国外交の勝利」(鄭東泳統一相)とまで言い切ったのは自画自賛が過ぎるとはいえ、それでも北朝鮮への独自の送電計画を示したり、米朝の間を「調整役」として必死に走り回ったりした。右往左往しただけとの見方もあるが(笑)、それでも問題解決に向けて積極的役割を果たそうと必死だった。韓国にとって北の核問題は外交安保ばかりか経済にまで影響を与える国家存亡に関わる重大事だという切実感もあったろう。
 米国も今回、従来から比すれば相当な柔軟性と譲歩を示した。前任の国務省次官補で協議首席代表だったケリーに比べ、現在のヒルは相当に裁量権を与えられてもいたようだ。日本の外交筋などからは「野心家」「日本への配慮がない」などという評価も聞こえてくるが、ヒルに代わってから米国の動きは間違いなく積極・活発化した。有能な外交官であるのは間違いなのだろう。
 一方、中国の果たした役割は言うまでもなく大きかった。粘り強く声明の草案を練り上げて各国に提示し、最終的には何とかまとめ上げた。米国などで対中警戒論などが高まる中、協議が失敗に終われば中国の外交的威信が失墜しかねないとの危機感もあったろうが、それでも中国がこれほどの役割を果たさなければ米朝がともにサインする声明採択はあり得なかったろう。今後の北東アジア外交で主導的役割を果たす足場を固めたともいえ、「大国」に相応しい役割を果たした。
 北朝鮮は当事者だから別格。ロシアはもともと協議に大した利益関係も興味も持っていない。

 では一体、我が日本は何を??。
 北朝鮮が核放棄の決断を下すための説得役を果たしたようにもみえなかったし、米国に譲歩を促す努力をしたようにも感じられない。両者の間に立って調整の役割を果たしたようにもみえない。
 北朝鮮との2国間接触を報じる日本メディアの話題は相変わらず拉致問題に集中。どこまでも自分のことだけ。で、協議では米国の金魚のフン。いや、今回は金魚のフンにすらならなかったのではないか。どうも日本の外務省などの中には「対北支援では最終的に日本のカネが必要で、日本を外す訳にはいかない」という金慢ゴーマンな思考もチラついているようだ。

 しかし、これで「大国」だというのか。挙げ句には国連安全保障理事会の常任理事国入りしたいというのか。地域最大の安保懸案ですら解決に向けた積極的役割を欠片も果たしていないのに、安保理の常任理事国??。バカバカしいにもほどがある。
 だが、我がコイズミ政権の外相、町村信孝はまだまだあきらめていないようだ。
 18日の国連総会で演説した町村は「わが国は安保理改革実現のため最大限の努力を続ける」「常任理事国としてより大きな役割を果たす」と意欲マンマン。一方で米国に次ぐ額を拠出している日本の国連分担金について「加盟国の地位と責任を適切に考慮」するよう訴え、常任理事国入りが果たされなければ拠出削減も示唆したのだという。
 要は「常任理事国にしろ。じゃないとカネは出さない」ということだ。外交的役割は果たさない。でも常任理事国にしろ。じゃないとカネ出さない。実にハズカシイ。

 思い出す。湾岸戦争でカネだけを出して「人的貢献」をしなかったため飼い主の米国に評価されなかったことが日本の外務官僚の間で「湾岸トラウマ」となり、イラク戦争で「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」につながったという話を。カネだけでなく汗もかく。自国の都合だけでなく国際協調が重要だ。永田町に巣食うボンボン2世のタカ派どももそう叫び続け、イラクへと自衛隊は派遣された。
 実にフシギだ。外務官僚やタカ派どもは、なぜ今回も同じことを叫ばないのだろう。カネだけでなく汗もかく。自国の都合ばかりでなく国際協調が重要だ、と。今回のような協議こそ、打算的に考えてもここで日本の存在意義を示すことは今後の外交戦略上も極めて重要で不可欠だと思うのだが、自衛隊の海外派遣などでは勇ましく「汗をかく」「国際協調だ」と吠えたボンボン2世のタカ派どもはダンマリを決め込んだままだ。恐らくこうした連中は、本当の意味での「汗」や「国際協調」、あるいは「外交戦略」というものを知らぬのだろう。
 これで「常任理事国にしろ。じゃないとカネは出さん」というのだから国際社会の笑い者だ。実にハズカシイ。

# by tikatusin | 2005-09-20 13:04 | 罵詈讒謗
2005年 09月 18日

スパイ防止法

 民主党の新代表は前原誠司だそうである。日本政治への絶望感はひたすら増すばかり。この国はホントにどこへ行くのか。

 メディアでは前原を民主党「次の内閣」で防衛庁長官などを務めた「外交・安保通」などと紹介しているが、松下政経塾出身のこの男、周知の通りの憲法9条を柱としたゴリゴリの改憲派であるとともに自民党も真っ青のタカ派である。自民、公明、民主各党の国防族議員で構成され、集団的自衛権の行使の容認などを主張して99年に発足した「安全保障議員協議会」の常任理事も務め、有事法制でも自民党内タカ派と緊密に連携して成立に大きく貢献したとされる。もはや自民党タカ派と同種というか、いわば「ネオコン」といってもよいほどの思想の持ち主だ。
 例えば今年5月5日、ヘリテージ財団がワシントンで開いたシンポジウムに招かれて「基調講演」した前原はこんなことを言い放っている。ごく一部のみ抜粋すれば--

▽日米同盟は大変重要でミサイル防衛にも賛成
▽周辺事態における(日米)共同対処を行う
▽(日米安保条約)6条の極東は古い定義。政府見解をアジア太平洋地域の安全と安定のた
 めに再定義することが必要
▽自国の防衛のみに力を注ぐということから大きく一歩も二歩も踏み出すことが必要
▽情報収集能力を強化。省庁横断的な情報収集機関をつくるべき
▽機密保持体制の強化が必要。公務員の機密保持の罰則が極めて緩い。体制の整備と強
 化が必要
▽武器輸出三原則の見直し必要

 いやはや、要は米軍と一体化した自衛隊の運用を一層推し進め、海外派兵の範囲を大幅に押し広げ、ただでさえなし崩しにされつつある武器輸出三原則を撤廃し、国内的には強力な情報機関をつくり、挙げ句の果てに「機密保持の強化」が必要というのである。ぶっちゃけていえば、「スパイ防止法」なども制定すべきだということなのだろう。もうひたすらゲンナリ・・。
 さらに前原が今回、党の政調会長へと「大抜擢」した松本剛明なる人物は前原と似たような思想の持ち主。父親も防衛庁長官などを務めており、東大〜興銀〜父親の秘書から政界入りという生粋のボンボン政治家。先のシンポジウムに揃って参加した松本について、前原は「お父様は防衛庁長官を経験され、曾お祖父さんは初代総理大臣・伊藤博文さんという素晴らしい家系の方」などと絶賛して紹介している(笑)。これもゲンナリ・・・・・。
 つまり、「2大政党」の片方のトップは「アジア軽視の靖国マニア」、もう片方のトップは「スパイ防止法推進派」だというのだから日本の政治はオシマイというしかない。

 ところで先の衆院選、コイズミ自民党が300の小選挙区で219議席を獲得するという圧勝を収めたが、小選挙区全体での自民党の得票率は47・8%。同1・4%の公明党を合わせても与党の得票率は49・2%。これに対し民主党は36・4%。共産(7・3%)と社民(1・5%)を合わせれば45・2%。国民新党や新党日本まで含めると与党との差は2%にも満たないのだとか。
 こうして見ると、選挙結果に現れた議席数よりは日本の有権者が「マトモ」な判断を下していたとも言えなくもない(それでも「マトモ」とは言いたくないが=笑)。にもかかわらず与党が比例も合わせ3分の2も占める「大勝利」を収めてしまったのだから、小選挙区制とは民意を反映しない恐るべきサイアクの選挙制度というしかない。
 それはともかく、今回の選挙で「岡田・民主党」へ票を投じた有権者(小選挙区なら36・4%)が、次回は果たして「前原・民主党」に投票するか。コイズミ自民党とさほど変わらぬ「タカ」で「ネオコン」な前原が代表を務める民主党などを果たして支持するのだろうか。だったら別に自民党でいいじゃない!、と思うのがフツウじゃないのだろうか。
 まあいわば菅直人や岡田克也でオブラートに包んできた民主党だったが、政策的には自民党の補完物でしかないという化けの皮が剥がれたともいえるのだろう。「前原・民主党」の誕生はむしろ、民主党崩壊を加速させる結果をもたらすかもしれない。

 にしても、小選挙区制下で自民と民主以外には共産党候補しかいないという選挙区は多いと思うが、こうした選挙区で真っ当な有権者はどこに投票すればいいのか。死に票覚悟で共産に入れるのか、でなければ「靖国マニア」か「スパイ防止法」か・・。まさにサイアクだ。

# by tikatusin | 2005-09-18 20:22 | 罵詈讒謗
2005年 09月 16日

瀕死の支持率

 ブッシュ支持率の低落に歯止めがかからない。ニューヨークタイムズ紙とCBSの調査(15日発表)では41%。NBC調査(同)ではついに就任以来最低の40%にまで落ち込んだ。米大統領としては瀕死の支持率だ。
 イラクの泥沼化とハリケーン・カトリーナの大被害によって、「真の危機管理」からはほど遠い間抜けな本性が曝け出されて這々の体なのだから当然と言えば当然なのだが、忠犬コイズミが総選挙で圧勝してウハウハなのとは好対照である。
 報道によれば、国連総会特別首脳会合の議場でブッシュは外相の町村信孝と立ち話し、「コイズミは最も好きな人物の一人だ。今回の選挙結果は心強く、頼もしい」と絶賛したんだとか。悪い冗談というか、情けないというか・・・。
 にしても、やはり米国の有権者の方がまだ少しは賢いのか。世界中に嫌われているブッシュに「頼もしい」とお褒めの言葉をいただいた我がコイズミは日本国民の「圧倒的支持」を受け、飼い主の当然のごとき支持率急落とは正反対に自民党で296議席。与党では国会3分の2・・・。
 そのコイズミは15日に同会合で演説し、国連安保理常任理事国入りへの「決意」を示したんだとか。頼りの米国にすら見捨てられ、もはや実現するなどと誰も思っていないのに。演説のタイトルが「言葉から行動へ」というのだからさらにトホホ。

# by tikatusin | 2005-09-16 15:34 | 罵詈讒謗
2005年 09月 14日

いくつかの良書

 9・11衆院選ショックから立ち直れていないので(ウソ)、最近目にした本の中から印象に残ったのを幾つか短信風にまとめて紹介。いずれも一読に値する物ばかりだ。
 にしても、つくづく信じ難き阿呆な民度しかないんだな、我が日本は!!(トホホ)

いくつかの良書_c0062756_1865141.jpg「監視カメラ社会〜もうプライバシーは存在しない」(江下雅之) タイトルこそ「監視カメラ」と冠されているが、監視カメラにとどまらず米国防総省が開発した地球規模の通信傍受システム「エシュロン」やFBIのメール傍受システム「肉食獣」などからネットや社内メールといった身近なものまで、国家・個人レベルで拡散する監視システムの実態をコンパクトに概観した一冊。世界的レベルで急速に進展する「監視・管理社会化」の現状を網羅的に知ることができる。著者はいわゆる教条主義的な反監視・管理論者ではなく、筆致はむしろ淡々。そして、既に監視を逃れる術などはないのだから我々にできるのは有効な監視を選択するという道しかないーとの指摘は現実を冷徹に見つめて秀逸だが、「もうプライバシーは存在しない」というサブタイトルを実感してやっぱり恐怖。(講談社+α新書、882円)

いくつかの良書_c0062756_1873637.jpg「〈犯罪被害者〉が報道を変える」(河原理子、高橋シズエ編) 現場記者や犯罪被害者がともに報道被害について考え、その改善案を探った一冊。編者を務めたのは地下鉄サリン事件で夫を失った高橋シズエさんと朝日新聞記者の河原理子氏。河原氏をはじめとする記者が高橋さんら犯罪被害者を招いて続けた勉強会の記録などをまとめたものだというが、報道被害の実態と現場記者たちの抱える「良心の苦悩」が滲み出た良著。現場記者にはまだまだ何とか事態を改善したいというエネルギーが残されていることを知らさせる。最近のメディア状況を見ると、そのエネルギーはあまりに微弱で無力には感じられるのだけれど…。(岩波書店、1890円)

いくつかの良書_c0062756_1863547.jpg「『生きる』という権利〜麻原彰晃主任弁護人の手記」(安田好弘) 数々の殺人事件のほか日本赤軍の丸岡修、泉水博、そしてオウムの麻原彰晃の主任弁護人までを務め、死刑廃止運動にも熱心に取り組んできた硬骨の弁護士による手記。著者自身も2002年に住専事件をめぐる強制執行妨害という信じ難きデッチ上げ容疑で逮捕されるという捜査機関の横暴による「被害者」となったことは良く知られるが、事件の加害者や被害者になるのはたいていが「弱い人」であり、無条件に「弱い人」に共感を覚えるーという著者には頭が下がる。こうした弁護士の存在は日本の法曹界における唯一の光。(講談社、1890円)

いくつかの良書_c0062756_187576.jpg「戦争の世紀を超えて」(姜尚中、森達也) 気鋭の政治学者・姜尚中とドキュメンタリー作家・森達也による対談集。「おれたちは戦争を知っているから絶対それには反対するんだという親父的な政治家たちの世代が終わったときに日本はどうなるのか。強硬派はなぜか二世や三世議員に多い」「今のこの社会が共有しているのは被害者の哀しみではなく、加害者への表層的な憎悪だ。第三者だからこそ気軽に憎悪を発動する」と言う森。「なぜ加害者である日本が平和となり、解放された我々が苦難の道を歩んで桎梏の中にいるのか。それはすごく多重的なルサンチマンを作り出したと思う」「僕はただ記憶することがアプリオリにいいことだとは思わない。記憶することと忘却することの両面が持っている問題点を、戦争の問題として捉え直して、そこを超えていかなくてはいけない」という姜。ポーランド、ドイツ、韓国、日本といった国々に残る「戦争の記憶」が刻まれた場所を訪れて対談した2人の発言の積み重ねは一読の価値がある。(講談社、1890円)

# by tikatusin | 2005-09-14 18:10 | 書評