地下通信 [chika-tsûshin]

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2005年 06月 27日

危険な玩具

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 少ししつこく推移を見つめていきたいと思うテーマがある。絶望的に危うい道に迷い込みつつあるのではないか、と心底から懸念するからだ。ついに衆院で審議入りした「共謀罪」新設を含む刑法改正案のことである。

 正確に言えば、「犯罪の国際化及び組織化に対処するために刑法等の一部を改正する法律案」ということになるが、そんな呪文のような法律的文言はどうでもいい。要は、実際に行動を起こさなくても、犯罪行為を「話し合った」だけで罰せられかねない可能性が濃厚な悪法、といえる点に最大の問題がある。こんなものが大手を振って罷り通るようになれば、日本は北朝鮮になりかねない。

 報道によれば、法案は「越境的組織犯罪防止条約」と「サイバー犯罪条約」を締結したことにともない、刑法など関連法を改正する必要に迫られたとされているが、問題となる「共謀」の適用範囲は「4年以上の懲役・禁固刑」にあたるとされており、適用法令は何と500以上にも上る。
 これらには公安警察が「別件逮捕」の“お得意技”としてきた有印私文書偽造や偽造公文書行使などなど、ありとあらゆる法令が包含される。こうした「犯罪」を「話し合った」だけで、懲役2年以上の罪に問われかねないのだ。
 「あいつ気に食わねえから殴っちまえ」「そうだな」。これで逮捕。こんな冗談が現実になりかねないという以前に、法律の適用方法いかんでは、治安機関にとって最高度の権力行使である身柄拘束のハードルが限りなく下がり、とてつもないフリーハンドを与えてしまうことになる。今ですら弱小極まりない世論さえ懐柔すれば、「ビラ配りは住居侵入」「ナイフを持っていれば銃刀法違反」などという滅茶苦茶が罷り通っているのだ。これ以上、治安機関に玩具を与えてどうするのか。それも危険極まりない玩具を、である。

 さらに改正案は、サイバー犯罪対策としてパソコン1台の差し押さえ令状によってLAN回線のようなもので結ばれた他パソコンのデータやプロバイダのメール情報などの保全を求めることも可能になるのだという。だが、これほど絶望的な悪法に対し、メディアの動きは極めて鈍い。絶望的に、鈍い。一体どうなっているのか。

 1999年問題、といわれた“現象”がある。この年、盗聴法(通信傍受法)や国旗・国家法、いわゆるガイドライン関連法など、戦後長らくタブー視されてきた国家機能強化に向けた法律が相次いで成立、施行された。
 これが分水嶺だったのだろうか。以降、国家機能強化に向けた動きは加速し、対峙すべきメディアの反応は、繰り返すが限りなく鈍い。「共謀罪」に関しても大手メディアが反対に向けた大論陣を張るような様子は毛ほども見えない。これぞ「平和ボケ」の最たるものだろう。我々は鈍感な「平和」を享受したまま、危険な石を一つ一つ積み上げているのではないか。
 この「共謀罪」に関しては今後も触れていく。
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by tikatusin | 2005-06-27 00:21 | メディア
2005年 06月 25日

ワシントンーイスタンブールー東京

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 ブッシュ米大統領は24日、ホワイトハウスでイラク移行政府のジャファリ首相と会談した。報道によれば、ブッシュ大統領はイラク情勢が依然として「厳しい」ことを認めながらも「敵に打ち勝つ」と言い放ち、ジャファリ首相も「状況は改善している」と力説したのだという。一方でブッシュ大統領はイラク駐留米軍の撤退時期について「いかなる期限も設定しない」と述べたのだとか。そりゃそうだろう、撤退などできる情勢ではなく、期限など設定できるような状況でもないはずだ。イラクの治安が改善されたなどという気配は少しも伝えられていないのだから。

 同じ日、トルコのイスタンブールでは「イラク世界民衆法廷」が開かれ、ある著名ジャーナリストがこう訴えたと外電が伝えている。
 「米国は2度の対イラク戦と13年間の過度な制裁措置でフセインより多くのイラク人を殺した」
 独裁者サダム・フセインなど徹底的に唾棄すべき存在だったが、ブッシュが国際世論を無視して乗り出した大義無きイラク侵攻戦によって今もイラクでは多数の命が失われ、米軍は「テロリスト掃討戦」を続けている。「掃討」されているのは本当に「テロリスト」だけなのか。
 ちなみにこの法廷は英国の国際法学者で国連人権高等弁務官事務所顧問でもあるクリスティーヌ・チンキン氏ら世界の著名学者や人権活動家が関与する非政府機構(NGO)。 日本(広島など)を含む世界12カ国で公聴会などを行い、現在はその締めくくりとなる法廷がイスタンブールで27日までの日程で開かれている。
 もちろん法廷に何の強制力があるわけでもないのだが、外電を眺めてみるとそれなりのニュースとして伝えているようだ。いわば「バランス」ということか、それとも多少は良心的な記者が組織内にいる、ということか。一方、日本の大手メディアは報じている様子が一切ない。

 同じ24日のニュースをもう少し。
 米国の民間調査機関、ビュー・リサーチ・センターが23日に世界16カ国を対象として実施した世論調査。何と米国に対する好感度が欧州を中心とする11カ国で中国より低いとの結果が出たのだという。理由はもちろんイラク侵攻戦への批判、ブッシュ政権への嫌悪だろう。
 実際、調査が米国に好感を持たぬ理由を尋ねたところ、「米国そのもの」より「ブッシュの存在」が計11カ国で上回っている。まあ当然の結果だが、米国より中国に好感を持つ国が11カ国にも上るというのは些か驚きだ。戦争狂のブッシュ政権は、世界の目が人権後進国の中国よりも米国を嫌悪しているという事実をどう考えるのか。

 一方、日本の一部メディアの24日の報道によれば、米国務省が最近、日本に対して自衛隊のイラク派遣延長を非公式に要請してきたのだという。自衛隊の派遣期限は12月末。サマワでこの前日に車両爆発事件が発生、日本国内には衝撃が広がったようだが、ブッシュの愛犬コイズミはおそらく尻尾を振るのだろう。いやはや、だ。今日も蒸し暑い。もうすぐ夏。
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by tikatusin | 2005-06-25 12:45 | 罵詈讒謗
2005年 06月 23日

書評=追及・北海道警「裏金」疑惑(北海道新聞取材班)

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 北海道の地方紙、北海道新聞によって繰り広げられた北海道警の「裏金疑惑」追及の全貌(一部?)をまとめた一冊である。
 タイトルには「疑惑」とあるが、「疑惑」などでは決してない。本書でも明らかにされている通り、日本の警察機構が「裏金」を日常的、組織的、かつ確信的に営々とつくり続けていたのは紛れもない「事実」であり、少し目先きの効くジャーナリストや新聞記者なら誰もが知っていた「常識」だ。北海道警に限らないなどというのはもちろんのこと。全国の警察に共通した病巣であり、膿であることもまた、多くの記者が気づいていたはずだ。
 もし万が一にもそれを知らなかった、あるいは気づかなかった、などという警察担当の記者やジャーナリストがいたとするならば、とてつもない大嘘つきか、どうしようもない能無しかのどちらかと思っていい。
 そう、問題は「事実を知ることができるか」ではなく、「知っている事実に切り込むことができるか、するか」、あるいは「知っている事実に切り込み、それを活字にすることができるか、しようとするか」という点にある。
 では何故に切り込めないのか。何故に活字にできないのかー。
 答えは簡単だ。警察は巨大な権力機構であり、日本のメジャーメディアにとって最重要の取材先の一つだからである。警察を怒らせればどうなるか分からない。必須のネタが取れなくなるかもしれない。そんな損で疲れることをするよりも、警察組織と二人三脚で「特ダネ合戦」をしていた方が数百倍も楽だ。絶望的に過ぎるかもしれないが、そんな理由からにすぎない。馬鹿馬鹿しいが、事実だから仕方ない。

 取材班の中枢となった同紙編集局・報道本部次長の高田昌幸氏は本書の「あとがき」でこう記している。少し長いが引用する。
 
北海道新聞も含め、最近の新聞、テレビは権力機構や権力者にたいして、真正面から疑義を唱えることがずいぶん少なくなったと思う。お行儀がよくなったのだ。警察組織はもとより、政府、政治家、高級官僚、大企業やその経営者などは、いつの時代も自らに都合の悪い情報は隠し、都合のよい情報は積極的に流し、自らの保身をはかろうとする。そして、権力機構や権力者の腐敗は、そこから始まる。
 ところが、報道機関はいつの間にか、こうした取材対象と二人三脚で歩むことが習い性になってしまった。悪名高い「記者クラブ」に座ったままで、あるいは、多少歩いて取材したとしても、相手から提供される情報を加工するだけで終わってしまう。日々、華々しく展開される「スクープ合戦」にしても、実際はそうした相手の土俵に乗り、やがて広報されることを先取りすることに血道を上げているケースが少なくない。
 (略)だからこそ、一連の取材は、いわゆる遊軍記者などには任せず、道警クラブ詰めのサツ回り記者が「逃げ場」のない中で真正面から取り組んだのである。したがって、本書は道警をはじめとする警察裏金の追及記録であると同時に、「報道とは何か」の模索の記録である。

 深く頷く。そう、メディアの真の役割はこの一文が言う通りの点にあるはずだ。北海道新聞の「疑惑」追及と前後しては高知県の地方紙、高知新聞が一層の孤軍奮闘の中で警察の裏金を追及している。では一体、「全国紙」を名乗る新聞や数々のメジャーメディアは何をやっているのか。
 唯一残念なのは、新聞記者がまとめた本にありがちなワクワクと読み進めるには固すぎて苦痛に感じる部分もある。だが、それを補ってあまりある「現代ジャーナリズムにおける貴重な闘いの記録」である。(講談社文庫、876円)
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by tikatusin | 2005-06-23 00:58 | 書評
2005年 06月 17日

メモの波紋

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 しばらく前に触れたブレア英政権の秘密会議録「ダウニングストリートメモ」に関して若干の動きがあったようなので簡単に紹介を。
 既述のように会議録は英サンデー・タイムズ紙が5月初めにスッパ抜いたもの。英国の情報局秘密情報部(MI6)長官が米英によるイラク侵攻戦の半年前、ブッシュ政権はイラク情報を「ねじ曲げている」と明言していた、との驚くべき内容が盛り込まれていた。

 これに関し、米民主党のペロシ下院院内総務ら計122人の議員が6月16日、ブッシュ大統領に質問書を送ったのだという。米メディアなどによれば、質問書は(1)ブッシュ大統領とブレア首相がイラク攻撃の必要性で最初に合意したのはいつか、(2)米英の情報機関がイラク侵攻に沿うよう情報操作をしたかーなどの内容。ちなみに(1)は「メモ」の中でブレア政権高官が「ブッシュが軍事行動を取る意思を固めたのは明確」「だが、軍事行動の論拠が薄い」などと述べていたためだろう。

 言うまでもなく「ダウニングストリートメモ」の暴露を受けた米議会内の具体的動きの一部だが、遅い上に手ぬるい!というのが率直な感想。決まってるじゃないか、ねじ曲げたのだ。あれほど騒ぎ立てた大量破壊兵器が今も欠片すら見つかっていないことを指摘するまでもない。ねじ曲げられた情報によって侵攻は正当化され、ブッシュはホワイトハウスでプレッツェルでもかじっているのかもしれないが、イラクでは今も無辜の民間人が命を失っている。

 それでも「ダウニングストリートメモ」の波紋が徐々にであれ米国内で広がることに期待したい。一方、日本メディアの報道ぶりは相変わらず鈍いようだ。
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by tikatusin | 2005-06-17 12:35 | メディア
2005年 06月 08日

言論報道の冗舌家たちよ

 長野県の地方紙であるため一般に目にすることは多くないだろうが、メディア業界や地元ではそのクオリティへの評価の高い「信濃毎日新聞」を眺めていてこんなコラムが目を引いた。4月28日付夕刊の1面。筆者は「抵抗の新聞人 桐生悠々」(岩波書店)などの著書で名高い硬骨の作家、井出孫六氏である。「元特攻隊員の遺書」と題されたコラムの全文を原文のまま引用する。
 
 Mさんという未知の方から『日本国憲法を護るーー生き残った特攻隊員、81歳の遺書』という64ページの冊子が送られてきた。
 拝見した冊子によると、1943年12月1日に学徒動員で招集されたMさんは、敗戦直前、仲間と戦闘機3機で沖縄に向けて九州の基地を飛びたち、ほどなく目標に到達しようという時、厚い雲が垂れこめるなか、海面すれすれに飛行していた僚友機が荒れ狂う波をかぶって砕け散った。あっという間の事故で海に消えた戦友に別れを告げたMさんは、機首を翻した隊長機に従って危地を脱し、再出撃を期したはずが、“終戦”で生き残った。
 ー昭和20年8月15日に終わった日本の戦争、日本が敗戦したことは間違いないことですが、私がこれを終戦、つまり日本はこの日をもって以後、決して戦争をしない日としたいと思いましたー
 と書く。かくして、家業のお菓子屋を継いで60年、市井の人たりつづけたMさんにとって、日本国憲法の全文「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」のくだりは徒疎かにできぬ文言として、彼を支え続けてきたことがわかる。
 ー戦場で、内地の空襲で、日本人の戦没者の数は300万人にも達したのです。このことは戦争を知らない現代の若い人たちにも、どうしても知って頂きたいと思います。「今の改憲政治家たちよ、そして言論報道の冗舌家たちよ、君たちは、そのような事実を考えて、ものを言っているのか」と私はいいたいのです。国家のためとは何だと言いたいのですー
 元特攻隊員Mさんの護憲論は憲法前文と9条を中心として「改憲政治家、言論報道の冗舌家たち」に噛んで言い含めるように書かれているが、憲法第1条象徴天皇制については疑問が残るとしつつも、「昭和期に生きた年代の人が未だ健在である限り、あと20年ぐらいは慎重な研究の時間が必要かもしれません」と書き遺している。衆参両院の報告書に元特攻隊員の声は届いていない。

 井出氏の筆によるコラム自体はもちろんだが、「Mさん」が記したという冊子の指摘に戦慄する。「改憲政治家たちよ、そして言論報道の冗舌家たちよ」、と。
 そう、本来は「改憲政治家」に対峙すべき「言論報道の冗舌家たち」は、今やMさんにとって「改憲政治家」と似たような高みに立って歴史忘却作業に邁進する同じ穴の狢に映っているのだ。最近のメディア状況を見れば当然とも的確ともいえる指摘だが、それでもあらためて慄然とするしかない。そして、「元特攻隊員」であるMさんの訴えは心の底まで深く、痛く響いて突き刺さる。

 戦場で、内地の空襲で、戦没者は300万以上に達した。今の改憲政治家たちよ、そして言論報道の冗舌家たちよ、君たちは、そのような事実を考えて、ものを言っているのか。国家のためとは何だーーー。

 だが今、日本では「改憲政治家や言論報道の冗舌家たち」が跳梁跋扈し、歴史忘却作業に躍起となり、憲法は「改正」への道を突き進んでいるようにみえる。Mさんには心から申し訳ないが、状況は相当に絶望的だ。

信濃毎日新聞ホームページ
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by tikatusin | 2005-06-08 19:55 | メディア
2005年 06月 06日

怯えの連鎖

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 仕事の都合で訪米することになった知人(日本国籍保持者)が最近、米国の査証を取ったのだが、手続きの煩雑さと非人間性に愚痴をこぼすことしきりだった。何と査証申請者は全員が指紋を押捺。知人の場合は申請したのが若干特殊な査証だったこともあり、領事を名乗る人物による事情聴取まで行われ、家族関係やらなにやらまで尋ねられたという。

 そういえばイラク侵攻戦の直後だったから2003年の春から夏にかけてだったと記憶しているのだが、私もやはり仕事の都合で同じ種類の査証を取得して訪米したことがある。この際は事情聴取はもちろん、指紋押捺などもなかった。
 訪れたのはニューヨークとワシントンDC。個人的にはもともと米国訪問には根深い抵抗感があったため(笑)、これが初めての米大陸への旅となったのだが、何の面白みもないワシントンDCはともかくとしてニューヨークは感慨深かった。別に何をしたわけでもない。仕事の合間をぬってひたすら街角をぶらぶらと歩き、しかしそれが実に面白かった。おそらくは頭の中に刷り込まれてしまっているのでもあろうが、人種の坩堝であり、世界の文化の中心の一つであり、良い意味で猥雑で活気に溢れ、自由と民主主義を象徴しているんだという思い込みの一片を感じてしまったりし、やっぱりいいなぁ、一度暮らしてみたいなぁ、などと心中悔しくも(笑)思ったりしたのだった。

 だが、あれから2年。今や査証取得に指紋押捺まで強制され、最近のニュースによれば航空機内へのライターの持ち込みまで禁止されたのだという。テロ対策のために、煙草に火をつけるためのライターを、である。ヒステリックになる一方の禁煙運動のためというならば百歩譲って理解できないことはないが(理解したくないが)、テロ対策のためライター持ち込みを禁ずるというのだ。馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
 テロリストが100円ライターで一体何をするというのか。いや、もし万が一にも100円ライターで航空機テロを狙っているテロリストがいたとしても(心底阿呆らしい話だが)、だとするなら100円ライターの持ち込みなど禁じたとしても、すぐに他の方法を考えだすだろう。(AP通信によると、その後に米運輸安全局は国内便でのライター持ち込み禁止措置を緩和した。これまでの全面禁止から、ライターに燃料が入っていない場合は検査の上で持ち込みが可となったのだという。持ち込み禁止措置のため売上高が激減した米ライターメーカー、ジッポー社の幹部はこの緩和措置を歓迎しているそうだが、これはこれで馬鹿馬鹿しい話だ)

 おいブッシュよ、サダムを除去しても、世界は、アメリカは、まったく安全になっていないではないか。「安全」を守るために「脅威」を取り除くのではなかったのか。少なくともアメリカは、100円ライターに怯え、そこを訪れたいと望む人々に指紋押捺までも強制している。怯えの連鎖はむしろ広がる一方じゃないか。それがイラク侵攻戦がもたらしたものだというのならば、せめて消え去れ、ブッシュ。
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by tikatusin | 2005-06-06 15:35 | 罵詈讒謗
2005年 06月 04日

正義の不在

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 5月初めに実施された英総選挙直前に当たる同月1日、英紙サンデータイムズが暴露したブレア政権の内部文書には驚かされた。いや、今更「驚かされた」などと記せば白々しく、ああやっぱりなぁと苦笑すら漏れたのだが、とはいってもその内容は極めて重大だ。しかし日本メディアはもちろん、米メディアも大きく扱うには至っていないようである。

 同紙によれば、「ダウニングストリートメモ」と呼ばれるこの文書はイラク戦争開戦(2003年3月20日)の約半年前に当たる2002年7月23日、英首相官邸で開かれた秘密会議の内容を要約したものだという。暴露時期から見て総選挙がらみのリークであるのは間違いないのだが、それを割り引いても興味深い内容を包含している。
 文書の送信者はブレア首相の外交政策担当補佐官。受取人は首相の外交政策顧問となっているが、会議出席者である国防相フーンや外相ストローら極少数の政府高官も配布先に記された上、「秘密情報につき厳重で細心の取り扱い」を求めている。
 文書の核心であるブレア政権高官の発言中で最も注目されるのは、「MI6」の通称で知られる英国の対外情報機関、情報局秘密情報部の長官であるリチャード・ディアラブの以下のような言及だ。この少し前に米CIA長官のテネットと行った会談の様子を紹介したもの、とされる。

 「米政権の態度が明らかに変わってきている。武力行使はもはや当然だと見なされている。ブッシュは軍事行動によるフセイン除去を望んでいる。テロリズム、大量破壊兵器とを関連づけることでそれを正当化する。だが、情報と事実は政策によって決まってしまっている。(略)ワシントンでは軍事攻撃が終わった後の対応について何も議論されていない」

 同文書には外相フーンのこんな発言も記載されている。

 「仮にタイミングが決まっていないとしても、ブッシュが軍事行動を取る意思を固めたのは明確に見える。だが、(軍事行動の)論拠が薄い。サダムは隣国の脅威ではなく、大量破壊兵器の能力はリビア、北朝鮮、イランより低い」

 要はブッシュ政権がイラクへの軍事行動を正当化するため情報と事実をねじ曲げている、というのだ。軍事行動への論拠は薄く、隣国の脅威でもないと判断されるにもかかわらず、とー。「情報と事実は政策によって決まってしまっている」。ともにイラク侵攻に加わることになるブレア政権が開戦半年前の段階でそう判断していたことを裏付けたという点において、文書の意味は重大だ。

 結局のところイラクで大量破壊兵器の欠片すら見つからなかったことを考えれば、この当時の英情報機関の判断は極めて真っ当だったのだが、ブレア政権はこの僅か2カ月後に当たる9月24日、イラクの大量破壊兵器開発状況に関する報告書を発表し、生物・化学兵器に関して「命令が出れば45分以内に配備できる」などと脅威を“告発”、米大統領ブッシュは直ちに「イラクの脅威は明らかだ」「(ブレア首相は)指導力を示した」と述べ、当時の米大統領報道官フライシャーはブレア政権の発表を「イラクの脅威への懸念を一層高めた」とまで大絶賛した。つまりはブッシュ政権と同じく、ブレア政権も「イラク侵攻」のために「情報のねじ曲げ」に手を染めたのだ。それを雄弁に物語っているという意味でも文書の意義は絶望的に深い。
 この「45分情報」のデタラメぶりでブレア政権は後に火だるまとなり、発表撤回にまで追い込まれたのは周知の通り。一方、発言の主であるMI6長官リチャード・ディアラブは昨年夏に退任したが、退任直前には「45分情報」に関し「ねじ曲げられた」ものだと明言。ディアラブはもっと早い段階からブレア政権の情報歪曲を密かにメディアなどにリークして警告もしていたとも伝えられるが、流れは変わらなかった。

 そりゃそうだよなぁ、と思う。真っ当な神経を持っている人間なら誰が見てもインチキだと気づいていたイラク侵攻戦なのだから、ブレア政権がそう判断していたのも驚くには当たらない。だが、情報は徹底的にねじ曲げられ、イラク侵攻戦は正当化された。これほど明々白々な証拠が出てもブッシュ政権はのうのうと存立し、今もテロ攻撃が収まらないイラクでは数えきれないほどの命が消されて行く。力こそすべて。この世に正義などない、のだ。

英サンデータイムズ紙の当該記事
「ダウニングストリートメモ」の反響まとめ(暗いニュースリンク)
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by tikatusin | 2005-06-04 22:06 | 罵詈讒謗
2005年 06月 01日

書評=レディジョーカー(高村薫)

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 以前に読んだように記憶していたのだが、本棚に積まれていたのを何とはなしに手に取って読み始め、圧倒的な面白さに再び引き込まれてしまった。仕事の合間をぬって(というより、仕事をサボって=笑)、読了まではあっという間だった。

 こうした本を内容にまで踏み込んで紹介するのはもちろんルール違反。それに大ヒット作品として既に世に知られていることを考えれば、今さら「書評」でもないだろう。
 それでもあらためて読み返してみるに、警察や検察、巨大企業や政界といった、奇麗ごとで表層を塗り固めようと躍起になる組織体の背後で当然ながら蠢いているだろう陰湿な矛盾を圧倒的なリアリティーで描き出し、こうした諸々の組織と闇社会が地下茎で結びつく根腐れた現実に焦点を当て、不正に手を染めながらも正義の欠片を渇望して無力と絶望に喘ぐ個を生々しく描く筆力において、高村薫はやはり飛び抜けた作家である。加えて本作品は極めて良質なエンターテインメントにも仕上がっている。

 エンターテインメントの一読者として率直に言えば、実は本作品には少々違和感を感じる部分もある。ストーリーのわずかな綻び、とも感じられなくもない幾つかの部分があるように思うのだ。ただ、全体を通してみれば全く気にならない綻びにすぎず、文句なしに面白い。

 それにしても、だ。以前にも書いたのだが、似たような舞台まわし(例えば警察、例えば犯罪、例えば社会情勢)を扱っているのに、やはり麻生幾氏ら他の作家とは役者が違いすぎる。どこまでも人間臭く、目線が低く、その上で状況を安易に一刀両断になどはしない。そんな筆致がリアルな共感を呼ぶのだろう。あらためてそう痛感させられた。(毎日新聞社、上下巻とも1785円)
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by tikatusin | 2005-06-01 23:28 | 書評